地方創生!福岡発「学生アイドルによる地方創生」の挑戦
元TVプロデューサー教授が伝える「アイドル力」
■元TVプロデューサーが教授になり地方創生を目指すまで
私が西日本短期大学メディア・プロモーション学科の教授に着任したのは、2020年4月のことでした。それまで34年間、東京のテレビ朝日で仕事に没頭していました。
ドラマ番組のプロデューサーとして『はぐれ刑事純情派』『土曜ワイド劇場』など多くの作品を手掛け、少年時代からの念願のドラマ作りにたずさわることができた、本当に幸せな時間でした。
藤田まことさん、中村玉緒さん、片平なぎささん、オダギリジョーさん、萩本欽一さん、他にもたくさんの、芸能の世界のプロの方々と一緒に仕事ができたことは、私の人生のかけがえのない財産となっています。
ドラマ制作の現場で駆け抜けた30と数年の日々は、そのまま続くものと思っていました。
そして、テレビ局で働きはじめて32年目の秋、心筋梗塞で倒れたのです。
手術室へ運ばれるストレッチャーの上、ドラマでこんなシーンを撮ったことはたくさんあるけれど自分が乗って見る光景はこんなふうなんだと、ぼんやり思ってみたり、妻に「じゃあね、行ってくるね」と気軽そうな声をかけたり、なんてことはないようにふるまいつつ、「これでもう戻って来られないかもしれない」とどこかで覚悟を決めていました。
けれど同時に感じたのは、とてつもない喪失感と焦りでした。
死への恐れではありません。積み重ねてきた学びが、すべてなくなってしまうことに対してです。学生時代から演劇活動に熱中し、テレビ業界で長い間番組づくりに携わってきて得た、芸能やエンターテインメント、メディアといった分野での経験。
それが、私の死の瞬間には消えてなくなる。
本当にそれでいいのか。
■「継承」こそ生かされた我が使命
幸いなことに、私は生かされました。「生かされた」そう感じたということは、新たな役割を与えられたのではないか。人はいつか死ぬ。それは痛いほど実感しました。だからこそ、様々な芸能のプロの方々と一緒に仕事をしてきて得た経験まで葬ってはいけない。そう強く感じたのです。ではどうすればいいのだろうか。
そうだ、若い世代へ受け継げばいい!
唐突に私の中に差し込んできた光のようなイメージは、若者たちに、先人の教えを説く指導者としての自分の姿でした。
大切な財産として私の中に根づく、人を楽しませる「エンタメの精神」、ひとつの作品を協力して作り上げる「チームワーク」、それらを追及し自分を磨く「クリエイティブ力」、そうした経験を、次の世代に継承していきたい! これこそ私が生かされた意味ではないか。
こうして私は、福岡の西日本短期大学メディア・プロモーション学科の教授となったのです。
福岡になじみがあったわけではありませんでしたが、移り住んですぐに愛着がわきました。人々は情に厚くて明るい。地方とは言っても九州の中心地として栄えていて、演劇や音楽など文化的な豊かさとにぎやかさもある。そんな土地で、学生と触れ合う日々です。
西日本短期大学メディア・プロモーション学科は、エンタメ業界で仕事をする夢を持った学生たちが集まる学科です。「メディア論」や「テレビドラマ論」といった学問的な面に加えて、思いがけず学科に伝わる学生アイドルユニットをプロデュースすることになりました。
■「アイドル力」で地方創生!世の中に元気と笑顔を
ちょうど私が着任した年の春、世界規模でコロナによるパンデミックが始まり、日本もコロナ禍に覆われていきました。
学生たちは学校に入れない、新入生は初めての講義もリモート、新しい仲間たちと会えない、学生にとっても教員にとっても、大変な日々。そんな時、AKB48のメンバーがそれぞれ自宅で「365日の紙飛行機」を歌った映像を一つに合わせた動画がアップされたのです。ほかにも様々なアーティストたちが同じように、自宅で歌う動画を届ける様子を見た時、「私たちもやるべきだ!」と感じました。エンタメの世界で活動する彼らは、今自分にできることをやることで、その役割を果たそうとしている。
もちろん、全国で学校に行けない辛さを経験している学生たちと、メディア・プロモーション学科の学生たちも同じ境遇です。
けれどこの学科にはアイドル活動があります。みんなの辛さやくやしさがわかる彼女たちこそ、パンデミックの世界に光を届けられるのではないか。
世の中に元気や笑顔、癒やしを届ける力、それが「アイドル力」です。
私は『コロナに負けない!プロジェクト』として、「アイドル力」で世の中に笑顔を届けていく活動を企画し、動き始めました。
人と人とが直接会えないという状況の中、「はなれていても、そばにいる」をテーマにオリジナル楽曲『miso soup』を制作し、ひとりずつ個別に撮影して編集で合成するという形でミュージックビデオを制作、SNSで発信しました。
学科に伝わるアイドル活動を再編成し、学生アイドルユニット「西短MP学科さくら組」を結成、活動の発展とともに福岡の公共団体とのコラボなども増え、地方創生に貢献しています。
■芸能の街・福岡からエンタメを発信する
東京のテレビ局時代、やはり私の視線は東京を向いていたと言わざるを得ません。エンタメの中心は東京。東京から発信してこそ、全国に波及していく。そう思っていました。
しかし、福岡でプロデュースしていて、「東京でなければ」という意識はどんどん薄れています。今はYouTubeをはじめとしたSNSで、発信できる手段がたくさんある。それがまず、地方でもエンタメをプロデュースできる理由の第一です。
福岡は、もともと大勢の芸能界のスターを生み出してきた街でした。古くから海外文化の玄関口となっていた土地であることや、お祭りが多くてお祭り好きの気質があることなど、芸能人を輩出する環境があったからではないかと、私は考えています。
そういう場所だからこそ、芸能文化は生まれ、磨かれている。つまり、魅力的な芸能人がたくさん生まれ、魅力的なアイドルも生まれる土地であって、プロデュースもやりがいがあると思えるのです。
では、福岡が特別なのでしょうか。芸能人を多く輩出するような福岡だからこそ、エンタメの発信もできるのか? 他の地方では難しいのか……?
違うと思います。確かに福岡は、芸能を育む街として恵まれた特質をいくつか持っていました。それがあったからこそ、今、福岡らしいエンタメの発信もできるわけです。しかし、他の地方も福岡をモデルケースにできないわけはありません。
■各地の特性を活かし日本全体の活性化へ
地方が特性を認識して追求していくことで、芸能と結びつく何かは見つけられると思っています。福岡にとっては、それが「海外文化の玄関口」や「お祭り好き」だっただけで、どんな土地にも特色はあります。それを見つけて磨き、芸能と結びつける。地方がみんな東京を目指して特徴がなくなるのではなく、土地の特色で進化し、文化を発展させ、他の地方にも良い影響を与え合う。
そんな良い循環が生まれれば、今はSNSを使っていくらでも発信できる世の中ですから、場所は関係ありません。ローカルから全国へ! も可能なはず。いろいろな地方が活性化することで、日本全体の活性化につながると信じています。
私もまだ、学生アイドルのプロデューサーとしては発展途上です。しかし、学生アイドルの可能性を信じ、もっと魅力を引き出して、福岡に限らず広い世界へ発信していきたい。このセカンドキャリアに、学生たちとともに情熱をもって取り組んでいます。
みなさんにも、ご自分のいる場所を活かしたエンターテインメントに挑戦していただきたい。「アイドル力」シリーズを読んでいただき、私の学生アイドルプロデュースの経験を参考にしていただけるなら、仲間が増えるような気がして嬉しいです。
エンターテインメントで人々の笑顔があふれる世界を創りましょう!