今木清志ブログ

あなたにもあるアイドル力

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シリーズ「あなたにもあるアイドル力」
第2回:歌声が希望を届けたとき  『365日の紙飛行機』と共感の力



■社会が沈黙したあの時期に



2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本中が自粛と不安に包まれていました。
街は静まり返り、学校や職場、そしてコンサートホールや劇場も一斉にその活動を止めました。

そんな中、多くの芸能人や音楽家が「自宅から届けるパフォーマンス」を模索していた時期、
私にとって特に強く心に残ったのが、AKB48による『365日の紙飛行機(おうちver.)』でした。

■『365日の紙飛行機(おうちver.)』の登場



この動画は、メンバーがそれぞれの自宅などで撮影した歌唱映像を編集でつなぎ合わせたもので、
2020年4月、YouTubeで公開されました。

「その距離を超えて、歌を届けたい」
という思いが、まさに日常を失った多くの人々の心に静かに届いたのです。

「朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるように そっとお願いした」
この歌詞のフレーズは、コロナ禍の現実と地続きで心に響きました。
「笑顔でいられるように」と願うその素朴なことばが、
視聴者の内面にある小さな希望や感情を、そっと掘り起こしてくれたのです。

SNS上には「涙が出た」「心があたたかくなった」などの声があふれ、
この動画は、ただの音楽コンテンツを超えて“心の回復装置”のような働きを果たしました。


■アイドル力としての「届ける力」



この『365日の紙飛行機(おうちver.)』が多くの人の心を打ったのは、いわゆる“完成された演出”とは異なる、等身大のパフォーマンスに宿るリアリティと誠実さがあったからです。

ステージ衣装も照明もない中で、メンバー一人ひとりが、それぞれの生活空間から歌を届ける──
その姿は、まさに「アイドル力」が本来持っている“相手に向けて気持ちを届ける力”を如実に表していました。

これは、ただの代替手段ではなく、むしろ「こんな時代だからこそ求められた新しいパフォーマンスの形」であり、
そこにはプロとしての責任感と、ファンに対する真摯な思いが込められていたのです。


■『世界中の隣人よ』が届けた社会的連帯



同じく2020年春、乃木坂46が発表した『世界中の隣人よ』もまた、大きな反響を呼びました。
この楽曲は、現役メンバーと卒業生が一堂に会する“つながりの象徴”でもあり、
発表日がちょうど緊急事態宣言解除日であったことも相まって、
「再び社会が動き出す日」にふさわしい、祈りのようなメッセージが込められていました。

さらに注目すべきは、収益を医療従事者支援のために寄付するという社会貢献性です。
楽曲の内容だけでなく、その背景にある行動によって、
この作品は「アイドルが社会の一員として何を届けられるか」を明確に示しました。

AKB48が“内なる希望”に静かに寄り添ったとすれば、
乃木坂46は“社会的連帯”を象徴する存在として、
アイドルの持つ可能性をさらに広い文脈で提示してくれたのです。


■私たちの「miso soup」──小さな灯りのような取り組み



全国区の影響力を持つAKB48や乃木坂46の活動と比べれば、私たちの発信は小さなものでした。
しかし、その規模に関係なく、「誰かに気持ちを届けたい」という想いに込められた力は同じです。

私がプロデュースを務めている西日本短期大学メディア・プロモーション学科「西短MP学科さくら組」によるミュージックビデオ『miso soup』は、
コロナ禍の中で、学生たちと共につくりあげたささやかな映像作品です。

一人ひとりがていねいに発した言葉や表情は、
「はなれていても、そばにいる」というメッセージとともに、
私たちの大学、学生、地域社会を静かにつなぎました。

完成した作品は、技術的に洗練されたものではありません。
しかし、そこに込められていたのは「今、目の前にいない誰かに、あたたかさを届けたい」という真っ直ぐな気持ちでした。

それこそが「アイドル力」──つまり、“共感と希望を生む発信力”なのだと、私は確信しています。

miso soup_MV

■「希望のメディア」としてのアイドル



芸能は「娯楽」であると同時に、「社会との接点」でもあります。
あの沈黙の春、アイドルたちは“非日常の象徴”から“日常に寄り添う存在”へと変化しました。

歌や映像は、世界を直接変える力は持たないかもしれません。
しかし、「つながろうとする意志」や「共に感じる力」を届けることによって、
人と社会の関係性を変えることはできるのです。

そしてそれは、アイドルだけのものではありません。
すべての人が、自分の言葉で、自分の仕方で、
小さな「希望」を発信する力を持っています。

■次回予告:「あまちゃん」と“人を照らす物語”



次回は、2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』を題材に、
「人を照らす」という視点からアイドル力を考察します。

地方の若者が「誰かを応援したい」という気持ちに背中を押され、
やがて自分自身が照らされるようになる──そんな物語に、今もう一度光を当てたいと思います。

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